国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)が開発した高齢者向けの在宅活動プログラム「HEPOP」。3カ月続けることで、加齢に伴って心身が衰える「フレイル」や「プレフレイル」の状態が改善し、「健常(ロバスト)」の人が倍増した。同センターリハビリテーション科医長の大沢愛子さん(48)らが、成果を論文にまとめ、5月1日付で日本老年医学会が発行する国際誌に掲載。本格的な研究に向けた予備調査の段階だが、大沢さんは「医学的根拠に基づく活動を広く提供し、高齢者の健康につなげたい」と話している。 (川合道子)
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HEPOPは、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛で活動量が落ちた高齢者の体力低下を防ぐ目的で、長寿研が自宅で取り組める運動・活動メニューとして考案。冊子などで紹介するだけでなく、実際にプログラムを体験できる機会もつくろうと、昨年7~12月、名古屋市内で「ワクワクHEPOP教室」として2度開催した。
教室はそれぞれ3カ月間で、週1回60分。一般応募の高齢者計56人が受講し、医師や理学療法士などの専門家から、フレイル予防の知識や体の仕組みを学んだり、運動・活動メニューから抜粋したストレッチや有酸素運動、筋トレを教わったりした。
それぞれの教室では初回と最終回に、心身機能の衰え具合を調べる基本チェックリストのほか、握力や通常歩行速度、立ち座りテストを実施し、「フレイル」「プレフレイル」「健常」の3段階で判定。欠席がなかった計48人(平均年齢75・6歳)を対象に、受講前後の変化を調べたところ、フレイルは15人から10人、プレフレイルは22人から15人に減少。健常は11人から23人と倍増した=グラフ。
初回にフレイルまたはプレフレイルと判定された受講者でも、平均歩行速度は1秒間に1・18メートルから1・27メートルと速くなり、いすに5回立ち座りする時間も平均で7・36秒から6・84秒に短縮し、3カ月で向上が見られた。
論文の筆頭著者で、今回の教室での運動指導にも当たった理学療法士の川村皓生さん(38)は「教室で覚えた運動に自宅でもしっかり取り組んでもらった結果。普段から速く歩くように心掛けるなど、意識面での変化もあったと思う」と分析する。大沢さんは「科学的根拠がない体操も数多くある中、一定の効果が出せたことは大きい。専門家が介入することで、その人の体の状態に合った運動を安全に継続するきっかけをつくっていきたい」と話している。
HEPOPの内容は、本紙生活面の連載「フレイルを防ぐ!! ずっと健康に」でもこれまで抜粋して紹介。過去の紙面で取り上げたストレッチや筋トレなどはQRコードから見ることができる。
2024年6月7日(金)中日新聞朝刊