■ 石川・能登町 大学病院と連携
若手出向 即戦力に
病院内で薬の調製や服薬指導を担う病院薬剤師の数が足りなくなっている。薬剤師全体の数は年々増えているが、薬局やドラッグストアに比べて初任給などが劣り、就職先として敬遠されがちなのが要因。特に地方の公立病院で不足しており、対策は急務だ。 (植木創太)
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能登半島北東部にある人口1万5千人の港町、石川県能登町。町直営の公立宇出津(うしつ)総合病院(病床数100)では、薬剤師を20年以上新規採用できていない。17の診療科があるが、正規の薬剤師はもうすぐ定年を控える男性のみ。ここ数年は定年退職した2人を再任用して業務を回している。
病院では地域の救急を担い、入院患者も抱えるため、人員はぎりぎり。事務局長の上野英明さん(59)は「医師不足に加えて薬剤師不足も深刻。誰かが倒れると、24時間体制は維持できないかも」と危機感を募らせる。
■ 都市・薬局に集中
厚生労働省によると、薬剤師全体の数は年々増えているが、他の医療職と同様に地方では足りていない。3月に公表した「薬剤師偏在指標」によると、供給が需要を上回っているのは、東京や大阪など都市部を抱える7都府県のみだ。
さらに、就業先の偏りも著しい。病院薬剤師は全都道府県で必要数を確保できていないが、薬局の薬剤師は東京や大阪など都市圏を中心に18都道府県で供給が上回っている。2036年度には、44都道府県でそうなる見通しという。
偏りの主な理由は待遇の格差だ。公立病院の薬剤師の初任給は自治体の条例に基づき20万円程度とされるが、レジ担当や責任者を兼ねるドラッグストアや調剤薬局では倍近くもらえる地域も。薬局の数は増えており、薬剤師は売り手市場。条件のいい就職先に人材が集まる状況になっている。
■ 自治体も支援策
症例数が多く認定・専門薬剤師の資格を取りやすい大規模病院や、条件面が比較的良い民間病院でも確保に苦しんでおり、地方の公立病院の採用はなおさらだ。そのため、国の基金を財源に奨学金の返済を支援する制度を設けて、薬剤師を確保する自治体も相次ぐ。
そんな中、注目されているのが、基幹病院と地域病院の連携。実は宇出津総合病院はそのモデルケースで、金沢大病院の卒後研修に協力する形で昨年4月から継続的に薬剤師の出向を受け、不足を補っている。
これまでに計5人が3カ月から半年の期間で1人ずつ町内に住み込んで勤務した。10月から勤める岡野麻衣さん(28)は初の女性出向者。大学病院とは違った患者との密な関わりに手応えも感じるといい、「勉強になるし、医師にも頼られる。このまま働き続けようかと迷うぐらい」と話す。
金沢大病院薬剤部長の崔吉道(さいよしみち)さん(57)によると、出向は2カ所目。大学病院での経験を伝えて各病院の業務改善につなげつつ、出向した薬剤師が地域医療を学ぶ機会にしようと18年に始めた。取り組みは今年、基幹病院と地域病院が共同で専門・認定薬剤師を育てる県の事業へと発展。来年以降、病院間を行き来して6年程度働いた希望者に奨学金返済を支援することで、地域への定着を目指すという。
勤務医の残業規制が来春始まり、医師から他業種への業務移管が進む中、病院薬剤師の確保と待遇改善は喫緊の課題。崔さんは「若い人材が働きたくなるような環境を病院に一刻も早く整えていきたい」と話した。