特定機能病院調査
大学病院などの勤務医の残業時間に罰則付きの上限を設ける医師の働き方改革が4月から始まるのを前に、高度医療を担う特定機能病院を対象に共同通信が調査した結果、回答した57病院の9割が「時間内に収めることは不可能」とし、上限を2倍近く引き上げる特例を申請すると答えた。改革自体には肯定的な意見が半数を超え、人工呼吸器離脱などの一部業務を看護師らに移管するタスクシフトや複数主治医制を導入する動きもあった。
上限を引き上げる特例は救急医や研修医ら一部医師に適用される。将来的に廃止される見通しだが当面は続くため、改革で過重労働がどこまで解消できるかは不透明だ。長時間労働は女性医師のキャリア形成を阻んできたとの指摘もあり、是正が急務。地域や診療科による医師偏在解消が課題だとする声も多かった。
1月末から2月にかけて調査を実施。全国の特定機能病院(88病院)のうち57病院が回答した。
新設される上限は休日労働を含め医師1人で原則年960時間だが、特例を申請し、適用されれば年1860時間まで認められる。申請すると答えたのは51病院で、年960時間に収められるとしたのは6病院だった。
改革を「評価する」5病院、「一定評価する」27病院で合わせて56・1%(32病院)。「あまり評価しない」「評価しない」は計8・8%(5病院)。「どちらとも言えない」は29・8%(17病院)。
本来は勤務とすべき業務を「自己研さん」とするケースは多いとされ、2022年に神戸市の医師が過労自殺した問題では、遺族側と医療機関側で主張が対立している。
調査で、病院側の対応を複数回答で尋ねたところ、最多が「勤務と自己研さんの区別など勤怠管理の徹底」(53病院)だった。タスクシフト推進や事務を補助する「医療クラーク増員」が各42病院。宿直や休日の日直勤務を時間外労働規制の対象外とする「宿日直許可の取得」と、複数主治医制導入がいずれも37あった。
実態変わらぬ恐れ
医師の労働問題に詳しい荒木優子弁護士の話 医師の働き方改革の目的は過労防止だ。しかし制度開始後も、あらゆる業務が都合良く「自己研さん」として扱われたり、軽度な業務を想定している「宿日直許可」が忙しい当直勤務にも適用されたりする恐れがある。見せかけだけ労働時間が減り、実質的な負担は変わらない可能性もあるのではないか。今の教授や病院長は長時間労働やサービス残業が当たり前の時代を過ごしているが、時代は変わった。医師ら働く側だけではなく経営者側も意識を変え、労働法を守った働き方を奨励するというメッセージを発信しなければならない。