医療機関 仕組みの周知に腐心
マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」。今月から、マイナ保険証に対応した医療機関で従来の保険証を使うと、初診、再診ともにマイナ保険証より医療費が多くかかるようになった。実際の窓口負担額が増えるかは微妙な金額だが、患者からは不満の声も上がっている。(佐橋大)
「マイナンバーカードの取得は任意のはずなのに、差をつけるのは納得がいかない」。愛知県内の男性(80)は憤る。今月十日、慢性的な高血圧の治療で病院を受診した際、健康保険証を使ったために医療費が高くなった、と職員から告げられた。マイナ保険証の普及のため、今月から再診時に加わった診療報酬上の「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」(二点)の分が上乗せされたという。男性は自らの信条でカードを作っていない。
医療費算定の基となる診療報酬の一点は、医療機関の収入十円に相当する。それに対する男性の窓口負担割合は一割なので、負担額が二円増えた計算だ。ただ、患者への医療費の請求は原則、十円未満を四捨五入するため、実際の負担が増えることもあれば、増えないこともある。
国は昨年四月の診療報酬改定で、この加算を導入した。当初は初診時限定で、マイナ保険証を使う患者の方が割高だった。その後、国は方針を転換。十月には、従来の保険証が四点、マイナ保険証が二点と、負担の軽重が逆転し、「マイナ保険証を使わないと損」という状況になった。
さらに今月から、初診で従来の保険証を使う場合の加算が六点に増え、マイナ保険証との差が拡大。新たに再診にも加算が設けられた。ただし、受診時に毎回加算されるわけではなく、一医療機関につき初診、再診を通して月一回だけだ。
「再診の加算を避けるには、マイナ保険証を毎回持ってくる必要がある。今は、持ってくる人が少なく一人一人に注意喚起できるが、今後、どうなるか心配」。名古屋市西区の「とりみ歯科」の医療ソーシャルワーカー、中嶋圭子さんは複雑な加算の仕組みに気をもむ。
歯科治療は月に何度も通うことが多い。月初めにマイナ保険証を使っても、その月の二回目以降の受診時にも持参しないと、その時点で再診の加算が請求される可能性がある。
また、マイナ保険証を使って受診の手続きをする際、診療情報の共有に同意しない場合も、従来の保険証と同じ加算の対象になる。これは、自分が過去に受けた治療や処方された薬などについて、特別民間法人「社会保険診療報酬支払基金」が蓄積している情報を、これから診療する医師らがオンラインで閲覧することに同意するもの。閲覧できるのはその日限りで、歯科であれば、血が止まりにくくなる薬の服用の有無といった情報を参考にすることも可能という。
「せっかくなら、納得して、気持ち良く受診してもらいたい」と中嶋さん。加算の仕組みを分かりやすく伝えるチラシを作り、十九日から院内に掲示した。
医療機関でマイナ保険証を利用するには、資格確認をするカードリーダーなどが必要。厚生労働省によると、九日現在、カードリーダーの申込率は92・2%だが、作業の遅れなどから、運用する医療機関は68・2%にとどまっている。