今月上旬、鈴鹿市の介護付き有料老人ホーム「みっかいち」。介護ベッドから身を起こした入所女性(92)が、タブレット端末の画面に映った好物のマグロの刺し身を指さした。「それが一番おいしそう。夜ご飯が楽しみ」
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タブレット端末を使い、好きな食材を選ぶ施設入所者㊨=鈴鹿市三日市3の介護付き有料老人ホーム「みっかいち」で
新型コロナ禍で入所者の外出自粛が続く中、みっかいちでは無料通信アプリ「LINE(ライン)」のビデオ通話を使って入所者に買い物や一時帰宅を体感してもらうサービスを取り入れている。買い物では、施設とスーパーの売り場をビデオ通話でつなぎ、入所者に好きな商品を選んでもらう。
施設代表の松原和之さん(51)によると、女性は最近、食事量が減っていたという。「家族と面会できず、好物を差し入れてもらうこともできない。施設側が用意することもできるが、自分で選んでもらい、食べて元気になってもらえれば」と傍らで見守った。
厚生労働省は2月、感染防止策として介護施設に面会や外出などを制限するよう求めた。全国的な移動制限が解かれた今も、感染すれば重症化するリスクの高い高齢の入居者を多く抱えるみっかいちでは、一部を除き制限を続ける。松原さんは「介護現場の自粛緩和は全業界の最後。一概に再開することは現実的でない」と話す。そんな中、苦肉の策で始めたのがビデオ通話によるオンライン面会だった。施設内で撮影した入所者の動画や写真を家族に定期的に送り、介護記録もオンラインで確認できるようにしたところ好評を博した。可能性を感じ、入所者に外出気分を味わってもらう「バーチャル企画」も加えた。
入所者が抱えるリスクはコロナだけではない。外出制限で外部からの刺激がなくなれば、認知症の症状が進む恐れがある。コロナ禍前、月に数回あった外出は「元気だったころの日常を感じてもらえる貴重な瞬間だった」(松原さん)。
ビデオ通話の活用でバーチャルながら衣替えやペットに会うための一時帰宅、仏壇や墓へのお参りなどにも対応できるようになった。「自分たちが思っていた以上に、入所者の方々にはやりたいことがあった。コロナのおかげという表現が正しいかわからないが、求められる介護の姿を改めて考える契機になった」と松原さんは感じている。 (須江政仁)