新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、マスクの着用時間が長くなるにつれ、口周りの肌のトラブルに悩む人が少なくない。マスク内部の蒸れや、サイズが合わないことによるこすれが主な原因だ。湿度の高い梅雨や暑さの厳しい夏に向け、予防や悪化させないためにはどうすればいいか。
岐阜市の女性会社員(41)が口周りの肌荒れに気付いたのは、暑さが増してきた5月中旬。「何かにかぶれたかな」と思うような痛みも感じ始めた。今、原因として思い当たるのは、国の緊急事態宣言が出た4月以降、着けるのが当たり前になったマスクだ。「こんなに長期間にわたって着けたことはない」。悪化が心配だが、マスクをやめることもできず頭を抱える。
藤田医科大ばんたね病院総合アレルギー科教授で、皮膚科が専門の矢上晶子さんによると、例年、マスクによる肌トラブルを訴えて来院する患者は冬のインフルエンザの流行期や春先の花粉症の時期に多い。しかし、今年は五月以降も続いている。多いのは、マスクが肌に触れる部分が赤くなってかゆみや痛みが出る症状。「1日中マスクを着ける状況は、肌にとって大きなストレス」と指摘する。
一般的な不織布マスクは目が細かく、内側に水分がこもりやすい。夏になると汗の量が増える分、なおさら内部の湿度は上がる。そうした状態でマスクを外すと、水分が一気に蒸発。肌の水分も奪うため、急激に乾燥が進む。蒸れと乾燥を繰り返し、そこにマスクの摩擦が加われば肌は荒れやすくなるというわけだ。
予防には、マスクを着ける前や外した後、年齢や肌質に合った化粧水やクリームを塗って保湿をすることが役立つ。矢上さんは「職場や学校にいる日中は難しいかもしれないが、肌が荒れやすい人は年齢や性別に関係なく、せめて朝晩の保湿を習慣づけてほしい」と呼び掛ける。保湿の前には洗顔料を使って顔を洗うなど清潔に保つことも大事という。
マスクは小さ過ぎても大き過ぎても、締め付けにつながったり、ずれやすかったりと、肌への刺激が大きく要注意。着けた時に快適なサイズ、形を選びたいが、マスク不足もあってなかなか難しい。そんな時は、マスクと肌が触れ合う部分にガーゼなど柔らかい布を挟めば、刺激は減らせる。ただ、あまりに厚い布を挟むと熱がこもりやすいため、熱中症の危険がある夏に向けては注意が必要だ。
10~20代は、こすれによる傷がニキビの悪化につながることもある。痕を残さないよう、見つけたら早めに皮膚科専門医にかかって治療を受けたい。矢上さんは「マスクを着けて夏を過ごすのは多くの人にとって初めての経験」と言い、対策を呼び掛ける。
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こすれによる肌荒れ防止にはガーゼやハンカチなどを挟むのも一案
◆「布」「不織布」使い分けを
保冷剤を入れるポケットがあったり、通気性のいい天然素材でできていたり。暑い日でも快適な夏用のマスクの需要が高まる。
不織布製に比べて、目が粗く、通気性がいいのが布製マスクだ。イオングループのコックス(東京)は14日から、触れるとひんやり感じる大人用マスクの予約販売を始めた。素材は主にポリエステルで紫外線を防ぐ効果も。約1週間で想定の10倍の注文を受けた。
手作り品が買えるサイト「Creema」でも、布マスクの出品は急増。運営するクリーマ(同)によると、2月の約2000点から現在は12万点以上に。「夏用」をうたい、夏の着物に使われる綿や麻などで作ったものも目立つ。
ただ、マスク着用の大きな目的は飛沫(ひまつ)を防ぎ、感染を広げないこと。公衆衛生学が専門で、「マスクの品格」の著書がある聖路加国際大大学院准教授の大西一成さん(41)によると、通気性を求め過ぎると、本来の効果が薄れる危険がある。
「3密」のような感染リスクが高い状況では、顔の形にフィットした不織布製など飛沫防止効果の高いマスクを着けるのが適切。布製は、人との距離が保てる屋外などに限るべきだという。「素材や構造による効果の違いを理解し、熱中症の危険も考えながら使い分けて感染拡大防止と快適さを両立させて」と呼び掛ける。
(植木創太)
2020年5月26日(火)中日新聞朝刊