家族を介護する人たちが集い、悩みなどを話し合う場を地域で増やそうと、立ち上げや運営を支援する動きが広がっている。集う場は「介護者の会」などと呼ばれ、当事者同士で不安やストレスを分かち合える貴重な機会。経験豊富なNPOなどが介護者たちにノウハウやこつを伝え、地域に人材や集う場を根付かせる。
「参加者が『気持ちを受け止めてもらえた』という思いになれるよう、平等に話し合っているかを進行役はみて」
2月上旬に愛知県春日井市で開かれた、介護者の会の立ち上げ方を学ぶ講座。講師で、東京のNPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」理事長の牧野史子さん(65)が呼び掛けた。
アラジンは介護保険制度が始まった翌年の2001年に設立。介護者の会の先駆けで都内で運営するほか、首都圏を中心にノウハウを伝える。
講座を開いたのは春日井市のNPO法人「てとりん」。10年に設立し、毎月第3土曜日に「家族介護者のつどい」を開く。設立時から携わる看護師で、代表理事の岩月万季代さん(52)は当時、働きながら母の介護が始まり「母が衰えていくことを受け止めるのはしんどい。介護者が気持ちを言い合える場がほしかった」。当初から牧野さんらの助言を受け、続けてきた。
好評で市外からも訪れるといい、地域に広めたいと講座を企画。地元住民ら約20人が参加し、進行役や介護者役を体験した。参加者で、複数の介護者の会に顔を出すという男性(58)は「仲がいい人だけで話し、新しい人が入りづらい会もある」。
牧野さんによると、会を続けるポイントの一つが「参加者を否定、批判したり、指導したりしないこと」。参加者は突然の介護に混乱し、不安だ。まず、たまった気持ちをはき出せる雰囲気を作る。ケアマネジャーや介護福祉士ら専門職が輪にいると介護サービスにつなげたり、一方的に指導したりしがちだが「必要な情報を押しつけにならないよう、示してもらえたら」。
もう一つが「横のつながり」。専門職も介護者も対等の立場で参加する。アラジン事務局長の中島由利子さん(69)は「介護者は自ら問題を解決する力がある」といい、経験を押しつけず、気持ちに寄り添い、解決策を見つけるのを待つ姿勢が大切という。
具体的な進行方法としては、皆が輪になるなどして自己紹介で1巡し、2巡目で困りごとを聞く。「要介護者が夜、眠ってくれない」など、参加者から共通の話題を引き出す。回を重ねるとそれぞれの参加者の状態がつかめ、進行役も話を振りやすくなり、自然と盛り上がるようになる。
中島さんは「進行役は参加者の悩みを抱え込まず、支援者で共有することが活動を長続きさせるこつ」と話す。
◆高まるニーズ
厚生労働省によると、要介護・要支援の認定者数は20年で約3倍に増え、昨年は約660万人に。介護者も増え、介護離職や遠距離介護など課題も多様化する一方、介護保険には介護者を直接支援する仕組みはなく、介護者の会のような場の必要性が高まっている。
当事者のほかボランティア、介護事業者、地域包括支援センターなどが開いており、名称や運営方法もさまざま。認知症の人や家族らが集う「認知症カフェ」だけでも約7000カ所(18年度)に上る。
厚労省も介護者を支援対象と認め、18年に市町村と地域包括支援センター向けに支援マニュアルを作成。既存の認知症カフェなどを活用して働く介護者も参加できるよう、平日夜や土日の開催などを提案している。(出口有紀)
2020年2月26日(水)中日新聞朝刊